為替レートが越境ECに与える影響について

はじめに
デジタル化の進展により、越境ECは急速に成長しています。また、インバウンドの伸長によって旅アト需要を満たす越境ECとしても成長しています。しかし、グローバル市場への参入において避けて通れないのが為替レートの変動です。為替レートは越境ECビジネスの収益性、競争力、そして長期的な成長戦略に大きな影響を与える重要な要素となっています。 本記事では、為替レートが越境ECに与える具体的な影響と、その対策について解説します。
為替レートとは何か
為替レートとは、異なる通貨間の交換比率のことです。例えば、1ドル=150円の場合、1米ドルを150円で交換できることを意味します。この比率は常に変動しており、経済情勢、政治的要因、市場の需給バランスなど様々な要因によって影響を受けます。 越境ECにおいては、販売国と購入国の通貨が異なるため、為替レートの変動が直接的にビジネスに影響を与えることになります。
越境ECへの影響
為替レートの変動は、商品価格や利益率、競争環境や顧客の購買行動に影響します。
1. 商品価格への影響
商品の実質価格に直接影響します。円安の場合と円高の場合ではそれぞれ以下のような影響があります。
例えば、1万円の商品を米国で販売する場合、1ドル=100円なら100ドル、1ドル=150円なら約67ドルとなり、大幅な価格差が生じます。円安になるほど1万円の価値が下がり、海外では同じ1万円の商品を安く購入することができます。
2. 利益率への影響
為替変動は企業の利益率に影響を与えます。特に、仕入れと販売で異なる通貨を使用する場合、その影響は複雑になります。 • 売上高の変動:海外売上を円換算する際の為替レートによって、円ベースの売上高が変動 • 仕入コストの変動:海外から仕入れる場合、為替変動により仕入コストが変動
3. 競合他社との競争環境への影響
為替レートの変動は、競合他社との相対的な競争力にも影響を与えます。 同じ商品を販売している場合でも、拠点とする国の通貨によって競争力が変化します。例えば、日本企業と韓国企業が同じ商品をアメリカで販売している場合、円と韓国ウォンの対ドルレートの違いにより、どちらがより競争力のある価格を提示できるかが決まります。
4. 顧客の購買行動への影響
為替レートの変動は、顧客の購買行動にも影響を与えます。 • 価格感度の変化:現地通貨建ての価格変動により、顧客の価格感度が変化 • 購入タイミングの変化:為替トレンドを意識した顧客が購入タイミングを調整 • 代替商品への移行:価格競争力低下により、競合商品への移行
業界・商品別の影響度
業界や商品別の影響度を鑑みた場合、それぞれの影響は勿論異なります。 高額商品の場合、顧客の購買行動に時間がかかります。それに加えて為替変動の影響が大きいため、為替動向を見極めて購入される傾向があります。
食品や化粧品、衣料品などの日用品や消耗品は、頻繁に購入される傾向にあるため、短期的な為替変動への反応は限定的と言えます。そのため、相対的に為替変動の影響は小さくなります。
オンラインサービスなどのデジタル商品やサービスの場合はどうでしょうか。例えばChat GPTの有料版では、月額USD20~からのプランがあります。これは有料版に申し込むと毎月課金されることとなり、一番安価なプランでは定期的にUSD20を円換算した金額で支払うこととなります。そのため月次レベルで見ると為替変動の影響は小さいと言えます。
為替リスク対策
外貨建ての売上となる場合、為替予約をして将来の特定月における為替レートを事前に確定したり、為替オプションにより為替レートが不利な方向に動いた場合の損失を小さくする方法があります。いずれにしても、外貨建てで商品販売すること(=販売者側が為替リスクをとること)で、現地購入者から見ると自国通貨での商品価格が一目でわかるため、買い物しやすくなります。 一方で、円建てで商品販売し、為替リスクを購入者側に負わせる方法もあります。この場合は販売者から見ればレート固定でビジネスできることとなりそうですが、実際には現地の購買動向を見る必要があり、円建て為替レート固定でも円高の際には円建て価格を下げたりなど調整する必要が出てきます。
越境ECのチャンスはいつか?
長期的に見ると現在は円安になっています。そのため輸出有利=越境EC有利ということになります。さらに、海外からのインバウンド客が過去最高となっており、昨年のインバウンド収入は8兆円を超えています。日本国内での旅行中に知った商品を、インバウンド客が自国に帰国後もリピート購入するためには、現地に商品が流通している必要があります。その導線として越境ECを活用することができます。ちなみに、経済産業省が毎年公表している調査報告書では、インバウンド客の8割以上が帰国後にリピート購入をするにあたって越境ECを利用したいとされています。
まとめ
海外に市場を求める限り、為替レートの変動は越境ECビジネスにとって避けることのできない要素です。しかし、適切な理解と対策により、リスクを最小限に抑えながら機会を最大化することが可能です。 成功のポイントは、為替変動を単なるリスクとして捉えるのではなく、戦略的な要素として組み込むことです。継続的な市場分析、柔軟な価格戦略により、グローバル市場での競争力を維持・向上させることができるでしょう。 越境ECの成長は今後も続くと予想される中、為替リスク管理は企業の持続的成長にとって不可欠なスキルとなっています。早期からの取り組みと継続的な改善により、グローバル市場での成功を掴んでいきましょう。
(参考)
・国土交通省観光庁, インバウンド消費動向調査(旧訪日外国人消費動向調査), https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001884192.pdf , (参照:2024-06-16) ・経済産業省 商務情報政策局 情報経済課, 令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書(p.106), 20240925001-1.pdf , (参照:2024-06-16)
Author Profile

MAKOTO TAJIRI
-越境ECコンサルタント- 貿易・国際物流分野において、営業・新規ビジネス開発・貿易実務に従事。 国際物流企業→総合コンサルティングファームを経てスターフィールド入社。 日本企業の海外輸出相談経験を持つことから、貿易・国際物流・事業構築を得意分野としています。 趣味はスイーツ(食べること専門)、愛犬と散歩、ドライブ。
SHARE