2024/02/22
ミッキーマウスの著作権が切れたというニュースから「著作権」について調べてみました
2024年1月にアメリカのウォルトディズニー社の初期作品「蒸気船ウィリー」の著作権が消滅しパブリックドメインとなりました。この作品はミッキーマウスが初めて登場したアニメーションであり、著作権が無くなったことで、この作品のストーリーや登場したミッキーマウスをはじめとするキャラクターを自由に使って創作できるようになります。
このニュースがあり、早くも「蒸気船ウィリー」を題材にしたホラー映画やゲームが発表されるなどの動きがありました。
スターフィールドは映像制作をする会社ではありませんが、デザインやシステムなどのものづくり行っています。そのため、無関係のニュースとは言い難いです。
制作業務を行う者として、漠然と他者が作ったものは無断では使えないという認識を当然のように持っていますが、そもそも著作権とは何なのか、調べてみました。
著作権に法的な有効利用がある理由
先ず前提として社会は、誰かが作った知的財産は制作者が永続に独占するより、人類共有の財産として誰もが自由に使える方が良いと考えています。その方が産業や文化を育むことに貢献できます。
現にディズニーの作品も「シンデレラ」「不思議の国のアリス」「白雪姫」など、おとぎ話を題材にした作品があります。ディズニーがこれらの作品を題材にしアニメーション映画を作り、それにより文化の発展に貢献したことは間違いありません。
しかし、その一方で誰もが自由に作品を使用できるなら、制作者の利益を守ることができません。著作権は制作者が作品を通じて収益を得る能力と、公共の文化の発展に寄与にすることのバランスを取るために存在しています。
著作権の国際ルール
著作権に国境はありません。著作物は国境を越えて利用されるので19世紀末から国際条約を結んで保護してきました。しかし、何を保護するのか?また、作品の権利はいつの時点で派生するのか?など法で銘文化してその対象を定めるのは考え方も色々あり、一筋縄ではいきません。
例えば、日本をはじめとするベルヌ条約を結んだ国家間では作品を作った後、無方式主義をとっており、特に登録などの手続きをしなくても制作物の著作権を得られます。一方、アメリカや中南米では方式主義を取っており、作品を作った後に著作権庁に登録することで著作権が認められます。
このように考え方も異なり、また社会の発展により新しいメディアが登場すると新しく保護するべき物が増えてきます。そのため社会情勢や技術の進歩により保護対象を広げたり、新たな協定や条約を作ってきたようです。
なお、現在では、アメリカのように方式主義をとっている国でも「"©"(コピーライツマーク)」を掲示することで保護の対象になるよう条約のルールで決められています。
簡単に主な国際条約をまとめてみました。
ベルヌ条約 | 万国著作権条約 | |
---|---|---|
創設年 | 1886年 | 1952年 |
日本の締結年 | 1899年 | 1956年 |
加入国数 | 179 | 180 |
主な目的 | 学的及び美術的著作物の保護 | 文学的及び美術的著作物の保護|欧州を中心としたベルヌ条約と米国、中南米を中心としたパンアメリカン条約の精度の調整 |
特長 | 無方式主義(作品を作った後、登録などの手続きは不要) など | 無方式主義国の著作物であっても©表示によって保護 など |
ローマ条約 | レコード条約 | |
---|---|---|
創設年 | 1961年 | 1971年 |
日本の締結年 | 1989年 | 1978年 |
加入国数 | 96 | 80 |
主な目的 | レコード製作者、実演家、放送機関などの保護 | レコード製作者の保護 |
特長 | 放送という場面で、実演家や商業用レコードの二次利用について規定 など | 許可されてないレコードの複製、輸入、配布を禁止 など |
TRIPS協定 | WIPO著作権条約(WCT) | |
---|---|---|
創設年 | 1994年 | 1996年 |
日本の締結年 | 1994年 | 2000年 |
加入国数 | 164 | 113 |
主な目的 | 貿易の際、知的所有権に関する協定 | 著作権に関する世界知的所有権機関条約 |
特長 | プログラム、データベース、映画、レコードの著作権と貸与に関する権利の保護 など | 著作物の譲渡権、貸与権、利用可能化権について規定 など |
北京条約 | マケラッシュ条約 | |
---|---|---|
創設年 | 2012年 | 2013年 |
日本の締結年 | 2020年 | 2018年 |
加入国数 | 47 | 92 |
主な目的 | 視聴覚的実演に関する条約 | 視覚や聴覚の障害がある人が著作物を利用する機会を促進 |
特長 | 実演家氏名の表示や同一性を保持する権利の規定 など | 障害に合わせて著作物を改変する際の制限についての規約 など |
など、多岐にわたる条約があります。 どのルールが適用されるのか?これは専門家の間でも意見が分かれてしまいますが、 共通することは
・著作物を守る意識が働いていること
・自国の著作物と同様に外国の著作物も守ること
という点です。
しかし、話が複雑になる点ですが、保護期間はその国よって異なります。
アメリカと日本の違い
著作物は加盟国で守ることは決まっていますが、自国の著作物と同様に権利を与えるというのが基本方針です。
そのため、保護期間はその国の考え方で異なります。
今回話題にした「蒸気船ウィリー」を例にするとアメリカは発表年(登録年)からカウントします。期間については紆余曲折があったようですが最終的に95年間になりました。そのためアメリカでは2024年からパブリックドメインになり、初期のミッキーマウスも自由に使えます。
しかし、日本の場合は、このような単純な話ではありません。作品が団体名義か、個人名義かでも期間が変わります。というのはアメリカと違い、団体名義なら発表年からカウントし、個人名義なら作者が生存している期間と死後も保護期間があるからです。
また、ミッキーマウス単体で考えた場合、ミッキーマウスの原画という絵があります。という事は映画の付属物なのか、美術品なのか?という見解でまた保護期間が異なります。
更に日本は連合国と戦争していた歴史があり、平和条約を結ぶ際に、戦争中の期間である10年5ヶ月分も別途保護期間として加算することが決められています。
つまり、日本においてのミッキーマウスの著作権は以下のルールが当てはまることになります。
ミッキーマウスの保護に影響するルール
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1928年11月時点(蒸気船ウィリーの発表年)の著作権の保護期間は団体名義なら発表から33年、個人名義なら死後38年間に定められていた。
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1970年新たな著作権法が施行され、映画や団体名義の保護期間は発表から50年、美術品は作者の死後50年に延長。また、この法律が施行された時点で保護対象となっている作品も同じく50年間に延長。
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2004年、映画の保護期間を公表から70年に延長し、保護対象の作品も延長の対象となった。
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ルール3に基づく保護期間と、ルール1に基づく保護期間を比べた場合、長い方の保護期間が採用される。
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2018年映画以外の著作権の保護期間を20年間延長が決定。
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平和条約の義務により、戦争中の期間も保護対象となるため、戦前の連合国の作品は保護期間が別途10年5ヶ月加算される。
このため、6通りの見解が出てしまい、結論はまだ出ていません。以下にそれぞれ解説します。
見解1 ミッキーマウスは映画の一部であり、ディズニー社の著作物である。
保護期間:1989年5月まで
この見解に基づいた場合、当時の映画の保護期間は33年なので1961年まで、更にルール6が加算され1972年5月まで延長されます。70年の時点で保護対象である作品という事はルール3も適用され保護期間は50年に延長されます。従って、1989年5月で終了 となります。
しかし、かつてチャップリンの映画の保護期間で、映画監督チャップリンの制作物なのか?映画製作会社の作品なのか?の見解で、裁判になりました。結果、最高裁がチャップリン個人の作品と判断しましたので、映画は監督の死後から保護期間を数えるのが通例となります。よって、この見解は通じないと思われます。
見解2 ミッキーマウスは映画の一部であり、ウォルト・ディズニー氏の作品である。
保護期間:2015年5月まで
この場合、ウォルト・ディズニー氏が亡くなったのは1966年12月なので、ルール1に基づき死後38年間までが保護対象なので2004年ま、そこにルール6が加算され、2015年まで5月までとなります。
2004年時点で保護期間があるという事はルール3の発表年から70年というルールも適用範囲ですが、この考えとルール6が加算されると2009年5月までとなります。しかし、このような場合はルール4に該当し、期間が長い方である 2015年5月までが期間となります。
見解3 ミッキーマウスは映画の一部であり、アブ・アイワークス氏の作品である。
保護期間:2020年5月まで
アブ・アイワークスはウォルト・ディズニーと共にスタジオを立ち上げた人物です。またミッキーマウスの造形の殆どは彼が担当して制作したようです。当然映画製作に大きくかかわり、蒸気船ウィリーのクレジットには「アブ・アイワークス作 ウォルト・ディズニーアニメ」と表記されています。また、アブ・アイワークスはウォルト・ディズニーより長生きし、1971年に亡くなりました。 ということはこの時点から算出し、2020年5月までとなります。
見解4 ミッキーマウスは美術作品でもあり、ウォルトディズニー社の制作物である。
保護期間:1989年5月まで
見解1~3はミッキーマウスが映画の一部という前提の場合の保護期間です。しかし、ミッキーマウスというキャラクターは原画があり、キャラクターその物が独立して著作権があるという考え方もできます。
そして、キャラクターの制作者がウォルト・ディズニー社という団体であると見ることもできます。この場合、考え方は概ね見解1と同様です。しかし、同じく同様の理由で認められないでしょう。
見解5 ミッキーマウスはウォルト・ディズニー氏名義の美術作品である。
保護期間:2047年5月まで
個人名義であるならルール1により死亡した段階で、1966年から算出され2004年までであり、1970年時点で保護対象となるのでルール2が適用され2016年まで延長されます。さらにルール6の戦争中の期間も加算されて2027年5月まで延長します。
2018年時点で保護対象となるなら、ルール5も適用され保護期間は死後70年という扱いになり、2047年5月まで、という判断になります。
見解6 ミッキーマウスはアブ・アイワークス氏名義の美術作品である。
保護期間:2052年5月まで
上述したようにミッキーマウスの誕生にはアブ・アイワークス氏の功績が大きく、ミッキーマウスはこの方の作品という見方もできます。という事はアブ・アイワークスの死亡年から算出するので2052年5月までという判断になります。
こうしてみると日本国内では「蒸気船ウィリー」の著作権は切れているが「ミッキーマウス」の著作権は切れていないという事になります。つまり現時点で断言できることは、
蒸気船ウィリーを題材にした作品を作ることができるが、ミッキーマウスなどのキャラクターは使わずオリジナルのキャラクターを使わなくてはいけない
という事になります。
まとめ
今回著作権について調べてみましたが、その内容は複雑で全てを把握できませんでした。特に国家間をまたぐ場合はその国の考え方次第でルールも全然違うようです。そのためよく調べ、必要なら専門家の意見を聞くようにしないと思わぬトラブルになるでしょう。
今回も「ミッキーマウスの著作権が切れた」というニュースで安易に使用していたら権利を侵害したかもしれません。
いずれにしろ、権利を守る意識は国際的にも浸透しているので制作者としてはルールを尊重し業務を行うべきと思いました。
参考記事
・骨董通り法律事務所
https://www.kottolaw.com/column/190913.html
・公益社団法人著作権情報センター
https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime5.html
Author Profile
KANAZAWA
長年webデザイナーをしておりました。業務の幅を広めるため日々勉強しています。
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