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ヨーロッパEC市場の未来を切り拓く「越境EC」─成長のカギは国境を越えるプラットフォームにあり

ヨーロッパEC市場の未来を切り拓く「越境EC」─成長のカギは国境を越えるプラットフォームにあり

2024年、ヨーロッパ各国のEC市場は堅調な成長を遂げ、オンラインショッピングは生活の一部として定着しました。
その中でも注目されるのが「越境EC(クロスボーダーEC)」の拡大です。
国を越えて商品を売買するスタイルが、今や欧州市場の主流になりつつあります。

越境EC拡大の波:各国の動向と注目ポイント

オランダ:越境ECの12%を占め、中国勢が台頭

2024年、オランダではオンライン支出全体の12%(約44億ユーロ)が越境ECによるものでした。
特に注目すべきは、中国のECプラットフォームの急成長です。越境注文のうち28%が中国からの購入で、前年の21%から大きく増加。総額4億3,400万ユーロ、注文件数1,150万件に達し、中国がオランダにおける最大の国際購入先となりました
これにより、中国の低価格商品と豊富な商品バリエーションがオランダ消費者に浸透しており、SheinやAliExpressなどのプレーヤーが存在感を強めています。

スペイン:越境取引が全体の57%を占める巨大マーケット

スペインでは、オンライン売上のうち57.2%が越境ECによるもので、総額は140.5億ユーロに達しました。
とくにEU内との取引が盛んですが、オランダ同様に中国系プラットフォームの台頭も見逃せません。
一方、スペインからの越境輸出は限定的で、輸出額は33.5億ユーロにとどまり、越境取引における赤字が課題となっています。

イタリア:AI活用と越境戦略の融合

イタリアのオンラインショッピング利用率はまだまだ低いです。
しかし、14%以上のEC事業者がドイツやフランスをはじめとする欧州市場で商品を販売しており、AIによる翻訳やパーソナライズ化がその後押しをしています。これにより、中小企業でも海外展開が現実的な選択肢となってきました。

アイルランド:欧州で最も高いオンラインショッピング利用率を記録

Eurostat(欧州統計局)の最新報告書によると、2024年、アイルランドのインターネット利用者の96%がオンラインで商品やサービスを購入し、欧州諸国の中で最も高いオンラインショッピング利用率を示し、eコマース市場の成長が続いています。
今後もオンラインショッピングの利用が拡大し、関連市場の発展が期待されます。

利用率の高さがアイルランドに続くのは、オランダ(94%)とデンマーク(91%)です。
一方で、ブルガリアのオンラインショッピング利用率は57%と最も低く、イタリアとルーマニアは共に60%にとどまっています。

中国プラットフォームの存在感:ヨーロッパで何が起きているのか?

ChatGPT Image202501-2.png オランダのケースに象徴されるように、中国系プラットフォーム(例:Shein、Temu、AliExpress)はヨーロッパ市場で急速にシェアを伸ばしています。
その背景には以下のような強みがあります:

  • 圧倒的な価格競争力と無料配送
  • アプリを通じたゲーミフィケーションや短時間セールによる購買促進
  • 多言語・多通貨対応の強化
  • 欧州倉庫・物流ハブの整備(例:ポーランド、ベルギー、スペインに拠点を設置)

これにより、従来の欧州小売業者だけでなく、米国や日本のEC企業にとっても競争環境が激化しています。
その中でも中国のオンラインマーケットプレイス「Temu」は、ヨーロッパ市場での迅速な配送を実現するため、現地倉庫の活用を開始しました。2024年12月以降、ドイツ、フランス、スペイン、オランダ、イタリア、オーストリアなどの国々で、現地倉庫からの出荷が可能となり、従来数週間かかっていた配送時間が数日に短縮されています。Temuは将来的に、ヨーロッパでの注文の80%を現地倉庫から出荷することを目指しているそうです。
また、同社は米国で小売メディア広告のテストを開始しており、今後ヨーロッパへの展開も計画しています。

しかし、欧州市場監視当局は、Temuを含む中国系プラットフォームの商品は欧州の規制に違反しているケースが多いと指摘しており、今後の対応が注目されています。

欧州市場全体の今後:2029年までに45%成長見込み

Forresterの調査によれば、ヨーロッパのEC市場は2024年から2029年の間に45%成長し、総額5,650億ユーロに達すると予測されています。
そのうちオンラインが占める割合は21%となり、特にイギリス(2,070億ユーロ)、ドイツ(1,460億ユーロ)、フランス(1,060億ユーロ)が主要市場を形成します。

企業が今、取り組むべき越境EC戦略

  • 物流の最適化:地域倉庫や配送パートナーの選定が鍵。まさにTemuが取り組んだ部分。特にスペインやルーマニアでは、地域物流センターの新設が競争力向上に直結しています。
  • 国別ローカライズ:言語・税制・決済手段への対応が必須です。異なる言語・通貨に対応することで、現地ユーザーの離脱を防ぎます。
  • 法制度・税制の理解:EU内とEU外では越境取引のルールが大きく異なるため、各国の税制や返品ポリシーへの対応が不可欠です。
  • AIとパーソナライズの活用:イタリアやルーマニアに見られるように、AIの活用は翻訳、マーケティング、需要予測まで幅広い分野で威力を発揮しています。
  • 中国勢との差別化:品質、ブランド力、アフターサービスなどで勝負
  • マーケットプレイス戦略:AmazonやeBay、現地ECモールとの連携
  • SNS・KOLとの連携:国ごとの消費行動に即したプロモーションを展開

まとめ:ヨーロッパ越境ECは「次の成長エンジン」

越境ECは、単なる販売チャネルの拡大ではなく、ブランドを国際的に育てる絶好の機会でもあります。中国プラットフォームの進出が市場を刺激する中、欧州企業やグローバルなブランドは、戦略的な投資と現地理解をもってこの波に乗ることが求められています。
今後のヨーロッパ市場を見据えるなら、「越境EC」は避けて通れないキーワードです。

参考

https://ecommercenews.eu/ecommerce-in-the-netherlands-increased-5-in-2024/
https://ecommercenews.eu/belgians-spent-17-4-billion-euros-online-in-2024/
https://ecommercenews.eu/italian-ecommerce-grew-6-in-2024/
https://ecommercenews.eu/spanish-ecommerce-increased-almost-13/
https://ecommercenews.eu/double-digit-online-growth-in-romania-continues/
https://ecommercenews.eu/temu-80-of-european-sales-via-local-warehouses/

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著者近影

TOMI

制作ディレクターとか進行管理とかリソース管理してます。 欧米もアジアも好きですが次は南米あたりに住みたい。

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