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イギリスEC市場における「返品」事情

イギリスEC市場における「返品」事情

はじめに

2022年に大手ファッションブランドのH&MおよびZARAが返品を有償化し始めたことを以前紹介しました。そのときはまだ多くの他のブランドは、購入者の購入ハードルを下げるという点から、返品のしやすさ(無償、返品可能期間の長期化)を優先しており、その傾向はすぐには変わらないように感じていました。 ところがあれから1年以上が経った今、イギリスでは約79%のファッション事業者が返品を有償化しているという調査結果が出されたのです。

様々な返品ポリシー

この79%という数字は、オランダの物流ソフトウェアプロバイダー「Sendcloud」が、イギリスのファッション事業者上位100社の返品ポリシーを解析した結果です。EC市場全体で 見ると、返品を無料で提供している事業者は約52%であり、僅差とはいえ、まだ返品無料のほうが優勢といえます。

その中でのファッション業界の79%有償化という数字を見ると、購買意欲を下げる可能性があるのになぜ?という疑問が出てきます。実は同調査によると、実は返品ポリシーを不透明な状態で運営している事業者が少なくないとのことです。

オンライン小売業者の 12% は返品要件をはっきりと表示しておらず、返品ポリシーはフッターメニューに表示されるのではなく、サポートページから入手できる場合もあるそうです。

この透明性の欠如は、返品コストに関してはさらに多く見られるようです。返品手数料を課している小売業者の最大64% は、これらの手数料を事前に顧客に開示していないといいます。手数料は代表値£5.22(平均値£2.95) です。価格帯は£1.99〜 £24.99と幅があるので、こういったコストについて説明がないと、顧客の不満につながる可能性があります。

しかしそれでも開示していないというのは、返品を有償化したいが購買意欲を下げたくないというセラー側の都合が透けて見えますね。

「返品ポリシーは大きな取引の妨げとなる可能性があり、顧客を維持するにはスムーズな返品プロセスを提供することが重要です」と、Sendcloud の CEO 兼共同創設者である Rob van den Heuvel 氏は述べています。しかし、返品ポリシーをホームページに表示している販売者はわずか 23% です。また、27% のケースでは払い戻し期間が見つかりません。

ちなみに、この調査では返品のしやすさについても解析しています。 小売業者の約7割は、顧客が返品を手配できる返品窓口を備えていますが、方法はシンプルとは言えないようです。返品受け取りサービスを提供しているのは43%のみで、74%は店舗内でのオプションを提供しています。また、オプションとして宅配ロッカーを挙げているのは12% だけです。

返品注文に印刷ラベルを提供しているのは 11% のみで、多くの顧客は自宅でラベルを印刷する必要があります。また、32%はペーパーレスの返品を行っており、顧客はQR コードを使用して荷物を持ち込むことができるそうです。

UKで返品有償化が進むのはなぜ?

まず1つ目の要因としては、ZARAやH&Mの与える影響の大きさがあったと考えられます。2022年のスタート時ではあくまで「トライアル」であった有償化ですが、そのまま定着させていき、他のブランドも追従していったようです。

2つ目の原因はやはり、収束の見えない物価高で、購入者の財布のひもが硬くなり、返品率が非常に高くなっているからです。こちらのほうが大きな要因かもしれません。

返品サービスを提供するZigZag(Global Blue)の調査によると、イギリス市場では2023年12月24日から1月2日までの返品数が前年同期比16%増加、アメリカでは、返品数が前年比で26%増加という驚異的な数字が出ています。さらに、イギリスのEC販売者は、24年の1月1、2日には、2023年の最初の2日間よりも42パーセント多い返品を受け取ったというのです。

ZigZagのCEOは「買い物客は、1 月のセールで安く購入するつもりで、今クリスマス ギフトや購入品を返品している可能性があり、小売業者はこの複雑な状況に慎重に対処する必要がある」と語っています。

現在、ZigZagを利用する小売顧客の63%には、何らかの形で有償返品サービスが組み込まれています。これは、返品に対して支払いを行うことが新たな標準になりつつあることを示しているといえます。EC小売業者は、顧客の負担よりも手数料の方がはるかに高いため、商品が返品されないことを強く望んでいることでしょう。そしてこれが、多くの小売業者が現在有料返品を利用している理由です。返品を避けることは、多くのEC小売業者にとって最優先事項の一つになっているのかもしれません。

まとめ

ZARAが返品の有償化を決めたのはサスティナビリティの視点からということでしたが、 多くの企業にとっては、終わりの見えない経済状況と高い返品率によるコスト増大が有償化を進める最大要因となっているのでしょう。 SendcloudのCEO兼共同創設者は「この競争のルールが変わりつつあることは明らかだ。返品無料の時代は過ぎ去り、意識的に返品をする方向へ道が開けている。返品コストを再考するだけでなく、業界全体が返品についても再考する時期が来ているのだ」と述べています。

参考記事

https://ecommercenews.eu/uk-79-fashion-retailers-have-return-fees/ https://ecommercenews.eu/return-wave-floods-online-sellers/

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著者近影

TOMI

制作ディレクターとか進行管理とかリソース管理してます。 欧米もアジアも好きですが次は南米あたりに住みたい。

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