越境ECの転売対策とは?

越境ECにおける商品転売の実態と対策 〜Shopeeモールを例に〜
はじめに
日本国内の企業や個人事業者が越境ECを通じて海外市場に商品を展開する機会が増えています。特に東南アジア圏ではインターネット普及とモバイル決済の浸透が進み、EC市場が急成長を遂げています。 その中でも、東南アジア最大級のECプラットフォームである「Shopee(ショッピー)」は、多くの日本企業が進出を試みる場となっています。しかし、こうした市場の魅力とは裏腹に、商品転売や模倣品の出品といったリスクもあります。 本稿では、Shopeeモールにおける転売の現状を紹介しつつ、企業やブランドオーナーがとるべき転売対策、特に商標取得を軸にした対策について解説します。
Shopeeモールにおける転売状況
Shopeeは、東南アジア最大級のECプラットフォームとして急成長を遂げており、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、などで高い市場シェアを誇っています。このShopeeでも転売品や模倣品の混入が多発しており、公式店舗であるという印象が必ずしも信頼性と一致しない点が問題視されています。 たとえば、日本の正規品を仕入れて転売している出品者が、独自にショップを立ち上げ、「正規代理店」と自称して販売している例もあります。
表向きにはブランド品として見える商品であっても、実際にはメーカーやブランドホルダーと何の契約関係もない、単なる転売業者ということも少なくありません。 さらに悪質なケースでは、正規パッケージに似せた偽物商品が出回っており、消費者トラブルの温床となっています。このような被害は一見ランダムに見えますが、構造的には以下のような背景が存在します。
- 出店審査
Shopeeへの出店には一定の審査があるものの、ブランドの許諾がなくても出品することが可能です。そのため、企業だけではなく個人も出店することができるスキームとなっています。
- ローカル業者や個人による買い付け・転売
日本国内のECサイトや実店舗から商品を買い付け、現地でプレミア価格で転売する業者や個人が存在します。これにより、ブランド側の価格政策や販売戦略が崩されてしまうことがあります。
日本企業がShopeeを通じて海外市場に展開する際には、転売や偽物のリスクを十分に理解し、早期から対策を講じる必要があります。Shopeeは東南アジア最大級のECモールという事もあり、信頼性の高いチャネルであると認識できますが、自らがブランド保護の視点を持つことが重要です。
転売対策
商標取得の重要性
越境ECで最も有効な転売対策の一つが「商標登録」です。特に販売を予定している国・地域において、自社ブランド名やロゴを商標として登録しておくことが重要です。
ShopeeなどのECプラットフォームでは、商標権を持っている事業者が、不正出品の削除やアカウント停止などの依頼を行えるようになっています。依頼ベースになるので必ずしも転売業者の出品削除ができるわけではありませんが、そもそも商標登録がなければ、不正転売を発見しても法的根拠がないため削除要請をすることが困難となり、泣き寝入りを強いられるケースもあります。
実際、越境EC事業者の約64.4%が進出先で商標登録を行っていないというデータもあり、これはブランド資産を自ら危険にさらしているのと同じことです。
商標登録の方法とポイント
- 各国での個別登録
販売予定国の現地で個別に商標を登録することが確実です。Shopeeが展開している国では、それぞれが独自の商標制度を持っており、国ごとに登録をする必要があります。
- 登録対象の選定:文字商標と図形商標
商標には文字商標(ブランド名など)と図形商標(ロゴなど)があります。最初に保護するべきは、ブランド名そのものである文字商標です。これは多くの場面で使用され、かつ模倣されやすいため、優先的に保護する価値があります。
- 登録費用とスケジュール
各国・国際出願ともに、登録までには半年〜1年程度を要することが多く、費用は国ごとに異なりますが、1国1区分あたり10数万円前後を目安にするといいでしょう。
プラットフォーム内での転売対策
商標登録に加えて、ECプラットフォーム上での運用面での工夫も必要です。以下のような手法が転売リスクの軽減に役立ちます。
- 定期的な価格モニタリング
転売業者はしばしば、正規販売価格よりも極端に高い価格設定で再販します。これは消費者の混乱を招くだけでなく、ブランドの価格イメージを毀損する原因にもなります。自社商品が不正に出品されていないかを定期的にチェックする必要があります。 転売業者が極端に高い価格設定をしている場合、その価格を少しでも下回ることができれば、価格に敏感な消費者のオーダーを刈り取りやすくなります。
- 「公式ショップ」であることの明示
ショップ名に「公式」と明記したりロゴやブランドストーリーをショップページに掲載するなど、視覚的・情報的に「正規販売店である」ことを明示する工夫も転売業者との差別化に有効です。
さらに、Shopeeには認定セラー制度があり、メーカーやブランド店がなり得る可能性のある、『Mallセラー』の認定を取得することがカギとなります。Mallセラーになるためには、本来はShopeeから声がかかって初めて申請することができるものになりますが、公式パートナー経由であれば、Shopeeに対して商標登録証の提出をすることでMallセラーに認定される道もあります。
おわりに
越境ECは、グローバル展開を目指す日本のブランドにとって非常に魅力的なビジネス機会を提供しています。しかし、Shopeeなどの主要プラットフォーム上では、不正転売や模倣品の脅威が常に存在しており、ただ商品を並べるだけではブランドは守れません。 ECモールで販売しているから守られているという楽観的なスタンスでは、いつの間にか転売品にシェアを奪われ、正規品との違いが消費者に伝わらないという事態にもなりかねません。 したがって、販売国ごとに商標を取得するなど、法的な権利の確立をベースに、運用面での対策を積み重ねていくことが不可欠です。
今後、越境ECに本格参入する事業者や、すでに参入済みであるものの自社ブランドを守る動きができていない事業者が、自社ブランドを持続的に成長していくためは早期からの転売対策に本腰を入れて取り組むことが必要です。
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Author Profile

MAKOTO TAJIRI
-越境ECコンサルタント- 貿易・国際物流分野において、営業・新規ビジネス開発・貿易実務に従事。 国際物流企業→総合コンサルティングファームを経てスターフィールド入社。 日本企業の海外輸出相談経験を持つことから、貿易・国際物流・事業構築を得意分野としています。 趣味はスイーツ(食べること専門)、愛犬と散歩、ドライブ。
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