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ECは「循環経済」を“実装”する最前線へ

ECは「循環経済」を“実装”する最前線へ

以前書いたファッション型業界における循環経済(サーキュラーエコノミー)についての記事では、Reflauntのケーススタディを通じて、一次流通と二次流通(リコマース)を一体で設計する重要性を整理しましたが、これは欧州全体の潮流としてもますます明確になっています。 今回はECこそが循環経済を推進する原動力であることを、ドイツ市場の具体データとともに紹介します。

ドイツ消費者の“ふつうの選択”になった中古オンライン取引

  • 55%の消費者が昨年オンラインで中古品を購入
  • 52%が中古品を販売
  • カテゴリーはファッション/書籍/電子機器が中心
  • 購入理由は「環境配慮(71.5%)」「価格の安さ(71.2%)」「費用対効果(66%)」が上位
  • 77.6%が「今後12ヶ月以内に再び中古品をオンライン購入する」と回答

価格志向とサステナビリティ志向が重なり合い、「中古をオンラインで買う/売る」は、もはやニッチではなく合理的で当たり前の選択肢になっていることがわかります。

リコマースは“EC全体の成長率の約2倍”で拡大

2024年のドイツ・リコマース市場は99億ユーロ、前年比+7.2%成長。これは同国のオンライン商品支出全体の成長率(+3.8%)のほぼ2倍に相当します。循環経済の文脈で「売上が取れない」という思い込みは、もはや通用しません。

P2Pから大手リテールまで:プレイヤーは一斉参入

  • Vinted、eBay KleinanzeigenなどのP2Pマーケットが牽引
  • Ikeaは中古家具専用のマーケットを開設
  • Decathlonは中古スポーツ用品を拡充
  • Amazonの中古品市場は10億ユーロ規模へ
  • TikTok Shopも欧州で中古販売に参入

一次流通・二次流通の境界は溶けつつあり、「新品を売るだけのEC」から「ライフサイクル全体を設計するEC」へと役割が拡張しています。 ただし、政策の対応はまだ不十分であるといわれ、税制や定義の整備など、業界の実態に即した政策支援が求められています。

日本のEC事業者が“今すぐ”進められることは?

  1. 再販チャネルの設計
    自社内運用か、マーケットプレイス連携か(Reflaunt型を含む)を早期に意思決定。
  2. プロダクト情報の“循環前提”拡張
    製品状態のスコアリング基準、修理履歴、部品の可用性など、リセール時に必要となるデータ項目を最初から設計。
  3. 返品→検品→再販の“逆物流(リバースロジスティクス)”をKPI化
    回収リードタイム、再販率、再販までの日数、マージンなどをダッシュボード化。
  4. デジタル製品パスポート(DPP)への備え
    EU発の要請は域外事業者にも波及の可能性。製造・素材情報、修理可能性、リサイクルルート等のデータ整備ロードマップを引いておく。
  5. 税・会計・ラベリングの整合性確認
    「新品/中古/再製造品」の価格設定ルールと表示基準を明確化し、法規制アップデートを継続モニタリング。
  6. “価格だけじゃない”購入動機の設計
    CO₂削減量や廃棄回避量の可視化、循環ポイント・下取りクレジットなど、“環境貢献が見える”UXを設計。

まとめ:循環は“善行”ではなく“勝ち筋”になった

このように、循環モデルは事業成長と両立する“経済合理性”を帯び始めています。ドイツの例は、ユーザー行動(価格×環境)・市場規模(高成長)・プレイヤー(大手の本格参入)の3点セットが揃うと、循環は一気に“主流化”することを示しました。
日本のECも、“再販前提のプロダクト情報設計”と“逆物流のKPI化”という実務レイヤーから着実に着手し、規制・標準化の流れを先取りしていくべきタイミングに来ています。

参考 :Ecommerce is the driving force of the circular economy

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著者近影

TOMI

制作ディレクターとか進行管理とかリソース管理してます。 欧米もアジアも好きですが次は南米あたりに住みたい。

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