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AIエージェントを中心に据えた業務環境への移行

AIエージェントを中心に据えた業務環境への移行

はじめに

先日公開された「AIエージェントを中心に据えた開発環境への移行」は、エンジニアがIDEからAIエージェントへ作業の中心を移した話でした。同じ構造の転換を、自分はエンジニアではない立場で進めてきました。

時代が大きく変わるという危機感と、この技術が業務のかたちをどこまで変えるのか、自分の手で確かめたいという衝動から、自分で業務環境の中心にAIエージェントを据え直してきました。Claudeを中心に据えた直近1ヶ月で、景色は大きく変わっています。誰かに導入されたのではなく、自ら設計し、試し、組み替えてきたプロセスです。

AIエージェント活用はもう、エンジニアの世界だけの話ではなくなっている——と、自分の手を動かしながら感じています。

本記事は、この1ヶ月で何を考え、何を組んだかの共有です。

以前の業務環境

半年ほど前の業務環境は、おおむね以下のようなものでした。

  • コミュニケーション:Gmail、Google Chat、Chatwork、Teams、Slack
  • 案件管理:Backlog(4スペース)、GitHub
  • スケジュール:Googleカレンダー
  • AI:ChatGPTやGeminiをブラウザから日常的に活用(メール下書き、議事録要約、モックアップHTML、提案書の構成まで)

毎朝、ブラウザを開けばGmail、Google Chat、Chatwork、Teams、Slack、Backlog、GitHub、カレンダーのタブが20も30も並んでいました。そこからChatworkの100を超えるルームのうち動いているものを流し見て、Backlogの4スペースを横断して新着コメントを拾い、カレンダーで当日の予定を確認する。

情報を集める作業と、集めた情報をもとに判断する作業が、完全に同じ人間(=自分)に重なっていました。AIの出番は多かったのですが、業務の外側にいて、用事があるときに呼び出す外注のような位置づけでした。

今の業務環境

現在は、以下のような構成になっています。

  • 作業の中心:ターミナル上のClaude Code、Claudeデスクトップアプリ、Cowork、Claude in Chrome
  • CLAUDE.mdに会社文脈・担当案件・業務プロトコルを事前に添えている
  • 役割別エージェントを3体制で運用(.claude/agents/ 配下に定義)
  • 業務アプリはブラウザで開くだけでなく、ターミナルから取れるものは取る(GitHubはgh CLI経由など)

朝、PCを立ち上げて「おはよう」と打つと、昨日以降に動いたメール、Chatworkの動き、BacklogとGitHubの新着、カレンダーの予定、判断が必要な論点が、ひとつのブリーフィングとして返ってきます。

情報を集める作業そのものが、業務から消えました。

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同じ構造は、朝のブリーフィング以外の領域にも広がっています。

たとえば提案書づくり。業界リサーチや先方の公開情報の読み込み、競合との差別化の整理、構成のたたき台、スライドのドラフトまで、AIが先回りで組み立てます。自分は要件や論点の解像度を上げる壁打ち相手として回り、何度も応酬を重ねて提案の輪郭を整える、という進め方になりました。最終成果物に至るまでの試行回数は、以前とは比較にならないくらい増えています。

かかる時間そのものは、意外にも劇的には減っていません。ただし、使っている脳がまったく違うというのが一番の実感です。手でゼロから資料を作っていた時代は、構成を考える脳・文字を打つ脳・体裁を整える脳が一度に動いていました。今は、方針を示す脳・論点を足す脳・最後に判断する脳だけが残っています。作業の実行者から、判断と編集の責任者へと、自分の役割が移ったような感覚です。時間ではなく、疲れ方と発想の出方が変わりました。

社内の案件引き継ぎ書も同じです。関連するBacklog、Chatwork、Gmail、GitHub上のやりとりや関連ドキュメントをAIに読み込ませたうえで、事実ベースのドラフトを組み立てさせています。人間の記憶や印象で書いた引き継ぎ書より、データから再構築されたほうが明らかに精度が高く、抜け漏れも減りました。

AIにはまだできないこと

人間の残された仕事のうち、大きなもののひとつが、ドキュメントに残らない暗黙知を最後に添えて仕上げる作業です。案件ごとの特殊事情、現場の温度感、その場でしか判断できない機微——こうした情報はどんなドキュメントにも書ききれません。事前に添えた文脈と、その場で添える暗黙知。両方あって初めて、AIが自分の代わりに考えてくれる状態に近づきます。

この延長で、情報の残し方そのものも意識するようになりました。たとえばオンライン会議では、アクションアイテムが決まった瞬間にあえて大きめの声で復唱しています。参加者への明確な共有でもありますが、AIが文字起こしから議事録を組み立てる際に、重要ポイントが確実に拾われるようにするための工夫です。日常の所作のなかに、AIが後から読み取れる形で情報を残すという意識が混ざるようになりました。

何が変わったのか

半年前の時点でも、ChatGPTやGeminiは一日に何度も呼び出して使っていました。下書きや要約はもちろん、モックアップHTMLの生成や提案書の構成まで任せていて、それで一通りの業務は回せていたのです。

そこから変わったのは、業務のなかでAIを呼ぶ立ち位置から、業務のなかにAIが組み込まれている立ち位置への移行でした。

AI活用の4つの階層

この変化は、AI活用の階層として整理するとわかりやすくなります。自分の実感では、AI活用にはおおむね以下の4段階があります。

  • レベル1:代替 — 人の作業を置き換える(要約、翻訳、下書き)
  • レベル2:比較検討 — 複数案を出させて選ぶ、壁打ち相手として使う
  • レベル3:思考の外部化 — 自社の文脈や判断基準を事前に渡した上で、AIとの応酬を重ねながら使う
  • レベル4:業務の再設計 — レベル3のAIを特定業務の専任としてフローに組み込む

半年前の自分はレベル1〜2を行き来していました。今はレベル3〜4にいる、という整理になります。

レベル2から上に進むために必要だったのは、技術や知識ではなく、2つのことでした。

ひとつは、AIに渡す文脈を整えること。「どのツールが一番いいか」「どのプロンプトが効くか」といった議論は、それ自体は自然で、自分も通ってきた道です。ただ、そこだけで時間を使っていると、レベル2の内側で留まりやすい。自分の業務・判断軸・自社の事情をAIに渡す準備を始めた瞬間から、景色が変わります。

もうひとつが、圧倒的な試行回数です。ひとつのアウトプットに対して、20回、30回と応酬を重ねる。「一度で正解が出る」ことをAIに期待している間は、どれだけ高性能なモデルを使ってもレベル2の内側から出られません。試行回数を前提にした瞬間に、AIとのやりとりは「正解を引く」作業ではなく「正解をつくる」作業に変わります。この切り替えが、階層をひとつ上げます。

ただし、レベル3からレベル4に進む段階では、最低限のIT的な感覚がまったく不要かといえば、それは嘘になります。たとえば、使っている業務ツールにAPIがあるかどうかを調べ、「APIがあるならAIに情報を取って来てもらえそう」「ないなら別の手を考える必要がある」と判断できる感覚です。高度な技術知識は要りませんが、こうしたツールとツールが繋がる仕組みの見当がつくと、設計の幅が明らかに広がります。

むしろエンジニアでない立場からだと、最初にぶつかるのはこの接続点ではないかと感じています。文脈を整えるところまでは自力でできても、AIをどの業務ツールに、どう繋ぐかの絵が描けない。ここは独学でもある程度は進めますが、身近にいるエンジニアと組んで小さな仕組みを一つ作ってみるのが、一番早い抜け方だと思います。大がかりなことを学ぶ必要はなく、「Claude CodeがGmailを読める状態を一度作る」くらいから十分です。

ここから先は、自分がレベル3〜4にどう登ったかを順に書きます。

1. CLAUDE.mdによる文脈の事前装填(レベル3への移行)

1つめは、CLAUDE.mdに自分と会社の文脈を添えるようにしたことです。

役職、事業、担当案件、パートナー企業、定例会議、ツール構成、Gmailのラベル体系、勤務パターン——これらの前提を、Claude Codeが毎回参照できる状態にしました。

この作業は、技術の話というより、自分の業務を客観視して、AIに渡す文脈を整える作業でした。普段は無意識にやっていることを、AIが使える形で整理する必要があります。

やってみてわかったのは、これをやる前と後では、同じ質問に対するAIの返答がまるで別物になるということでした。「この案件、どう進めますか」という一言で、クライアントの背景・過去の経緯・社内の担当者・判断基準まで踏まえた回答が返ってくる。文脈を毎回ゼロから伝える必要がなくなる。

出力の精度は、AIの性能ではなく、どれだけの文脈を渡せているかで決まる。これが一番大きな発見でした。

文脈は、業務情報だけではありません。Claudeには個人設定という、すべての会話に共通で適用される設定欄があります。自分はここに、たった一文だけ書いています——「嘘はつくな。出来なかったら出来ないといえ」

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たった一文ですが、これがよく効きます。知らないことを知ったかぶりで埋めてこない。推測で架空の情報を生成しない。「その情報は持っていません、確認させてください」と正直に返してくる。業務パートナーとして一緒に仕事をするうえで、この一文があるかないかで信頼の置き方がまったく変わります。この記事も、事実と推測が混ざらないまま書き上がったのは、この設定のおかげが大きいと感じています。

2. 役割別エージェントによる業務分業(レベル4への移行)

2つめは、ひとつのAIに全部を頼むのではなく、役割ごとにエージェントを分けたことです。

現在は3体制で運用しています。情報を集める方角を担うCompass(羅針盤)、課題の解に向かう方角を担うSolver(解決者)、判断の拠り所を担うAnchor(錨)。それぞれ起動ワードで呼び分けます。

この3体制に至るまでに、何度か編成を組み替えました。最初は「資料作成担当」「レポート担当」「コーチ担当」のように機能名で分けていましたが、しばらく回すうちに、機能名だと依頼する側が「今どれを呼ぶべきか」を毎回考える必要が出てきて、かえって思考のリズムを止めることに気づきました。

Compass / Solver / Anchor という抽象語に切り替えたのは、「どこに向かわせるか」という方角で分けたほうが、依頼する自分の思考が先に整理されるからです。「今から自分はCompassで情報を集めに行く」「今はAnchorで判断の拠り所がほしい」——どのエージェントを呼ぶかを選ぶ瞬間が、そのまま今から自分は何をしようとしているのかの宣言になります。

エージェントの命名は、AIに仕事を振るためのラベルではなく、自分の業務モードを切り替えるスイッチだった、というのが今の実感です。

3. 業務アプリの立ち位置の変化

この2つが組み合わさった結果、業務アプリ(Gmail、Chatwork、Backlog、GitHub、カレンダー)を自分から巡回する時間が大きく減りました。業務アプリ自体は今でも日中ずっと開いていて、個別のやりとりやリアルタイムの反応は直接見ています。変わったのは、「まず自分が巡回して情報を集める」という入口の役割がAI側に移ったこと。業務アプリは、情報を能動的に取りに行く場所から、必要に応じて直接触れる場所へと、位置づけが変わりました。

範囲は業務アプリだけにとどまりません。Web、社内ドキュメント、過去のやりとり——AIはすでに外部脳と接続された状態で待っています。自分でブラウザを開いて検索して、タブを行き来して、コピペで集めて、という手作業を踏まなくても、「この件について必要な情報を集めて」と一言渡せば、ガッと集まってくる。調べる時間と、集めたものを使って考える時間の境目がなくなりました。

判断する人間は自分ひとりですし、最終承認も自分のところで止まります。それでも「情報を集めるのに午前中を使う」が消え、「集めた情報を判断する」と「判断したものを実行する」に時間を寄せられるようになったのは、大きな変化でした。

ここまでClaude系のツールを中心に書いていますが、使っているAIはClaudeだけではありません。用途に応じてGemini(とくにGems)もGensparkも使っています。レベル3の「文脈を事前に渡す」という工夫は、ClaudeのCLAUDE.mdでもGeminiのGemsでも、本質的に同じことが実現できます。自分にとって本質は、どのAIを使うかではなく、業務の前にAIを先回りさせる構造が作れているかどうかです。ツールは数ヶ月単位で入れ替わりますが、この構造はツールを超えて残ります

まとめ

「AIを業務アプリのなかで使う」から「AIを中心に置いて業務アプリを脇に置く」へ。開発環境で起きた構造の逆転は、業務環境でも同じ形で起きるというのが、この1ヶ月の一番の実感でした。

特別な技術は必要ありませんでした。必要だったのは、自分の業務と判断軸を整理してAIに渡すこと、書ききれない暗黙知を都度添えること、そして**「正解をつくる」ための圧倒的な試行回数を惜しまないこと**——エンジニアでない立場でも、十分に踏める道です。ツールもClaudeに限った話ではなく、GeminiのGemsで同じ階層までは行けます。

そして何より、自分がこの時代の仕事の仕方を、心から楽しんでいます。朝、ターミナルに「おはよう」と打つところから始まる一日。自分の手が届く範囲がどんどん広がっていく感覚。業務の中心を動かしにいく過程そのものが、面白くて仕方ありません。この面白さが伝われば、この記事は十分に役目を果たしたと思っています。

Author Profile

著者近影

YUJI MEZAKI代表取締役副社長

代表取締役副社長をやっています。 越境ECとWebマーケの営業担当しています。 なんでもカリカリにチューニングして生産性あげるのが好きで勉強したビジネスフレームワークの記事多め。 趣味はPC自作で会社のWindowsデスクトップはほぼ自分が組みました。 1985年生/2008年早大卒/

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