2026/07/30
人口47万人・高所得のブルネイは越境ECの選択肢になるか?──Shopeeの「ブルネイ進出」の形から考える

はじめに
Shopee支援を本業にしていると、「Shopeeが次にどの市場に手を伸ばすか」は自然と気になります。
そんな中で目に留まったのが、ブルネイでした。人口はおよそ47万人。東京都八王子市より少し少ないくらいの規模です。正直、最初は「事業として成立する市場なのか?」というのが率直な感想でした。
ただ調べてみると、Shopeeの入り方が思っていたものとまったく違い、そこに越境ECの実務者として学ぶところがありました。今回はブルネイのEC市場規模を整理しつつ、日本から越境ECで狙う価値があるのかを考えてみます。
Shopeeは「ブルネイに出店した」のではない
まず事実関係の整理です。Shopeeは2026年1月から「Brunei Expansion Programme」を開始しています。ただしこれは、shopee.com.bn のような新しい国別サイトを立ち上げたわけではありません。
やったことは、Shopeeマレーシア(MY)の配送先にブルネイを追加した、というものです。
セラー側から見ると、こうなります。
- 既存のShopee MYのショップのまま、ブルネイの買い手に販売できる
- 新しいショップの開設、別アカウント、別のSeller Centreは不要
- プログラム参加費・追加手数料はなし
- 配送はShopee Supported Logistics(SSL)経由に限定。通関書類と輸入通関はShopeeの物流パートナーが処理
- 配送目安は4〜8営業日、ブルネイ全郵便番号に配送可能
- 対象は西マレーシアのセラー限定(サバ州・サラワク州は現時点で対象外)
買い手側から見ると、Shopee MYのアプリでブルネイの住所を登録するだけです。ブルネイの電話番号でのMYアカウント登録も可能です。
一方で制約もあります。航空便扱いのため上限30kg・一辺100cmまで、Instant Refundと「気が変わった」タイプの返品は非対応。ブルネイの輸入関税・物品税を支払済みの場合、それは返金されません。
なぜマレーシア経由なのか
地図を見ると納得します。
ブルネイは国土をぐるりとマレーシア(ボルネオ島サラワク州)に囲まれています。物流も商流も、実態としてマレーシアと一体です。

そしてこれまでブルネイの消費者は、マレーシアのECサイトで買いたいときに「代行業者」「runner」「cube store」と呼ばれる仲介に頼るしかなかった。手数料も価格も不透明で、買い手保護もない状態でした。
つまりShopeeは、新規需要を作りにいったのではなく、すでに存在していたグレーな越境需要を自社プラットフォームに吸収しにいったわけです。ここが上手いところだと思います。
ブルネイのEC市場規模を数字で見る
規模を確認しておきます。

注目すべきは2点です。
1つ目は、購買力が低い市場ではないこと。 1人当たりGDPは名目で約3.6万米ドル。産油国であり、ASEANの中ではシンガポールに次ぐ所得水準です。インターネット普及率は96%を超え、米国商務省のカントリーコマーシャルガイドによれば、ブルネイ人の76%がオンラインでの買い物・銀行取引・決済を利用しています。「市場が小さい」ことと「消費者が買わない」ことは別という前提で見るべき市場です。
2つ目は、市場が極端に集中していること。 UNESCAPの調査では、ブルネイのB2Cマーケットプレイスは65サイト存在する一方、トラフィックの91%が上位10サイトに集中しています。裏を返せば、Shopeeのような強いプラットフォームが1つ入ると、市場構造が一気に書き換わりうる規模だということです。
ただし、規模感は正しく見ておくべきです。8,700万米ドルは日本円で130億円前後。当社が支援する先で多い台湾市場はEC市場規模5兆円程度と、桁が大きく違います。ブルネイ単独で事業計画を書ける市場ではありません。
日本から越境ECで狙う価値はあるのか
3つの角度で整理します。
① 税制は、実はかなり有利
ブルネイにはVAT・GST・売上税がありません。輸入時に付加価値税が乗らないというのは、越境ECの価格競争力として地味に大きいポイントです。
輸入関税も2017年の改正以降、大部分の品目が0%。実務上は、CIF価格がB$400(約4.5万円)を超えるあたりから関税を意識する、という水準です(算出関税額がB$1未満の場合は徴収されません)。
ただし例外はあります。糖分の高い食品、プラスチック製品、携帯電話、革製品、ゲーム機などは税率が引き上げられており、ゲーム機は20%水準。品目ごとにHSコードで確認する前提は変わりません。
② 一方で、宗教規制が商品選定を強く縛る
ブルネイはイスラム教を国教とする国です。ここを軽く見ると、商品選定の段階で全部やり直しになります。
アルコールは原則禁止。 日本酒・焼酎・クラフトビールといった、いま日本の食品輸出で最も勢いのあるカテゴリーがそのまま落ちます 豚肉・豚由来原料はNG。 ゼラチン、ラード、酵素、アルコール由来のフレーバーなど、加工食品では原料表まで遡る必要があります 食品・化粧品・医薬品はハラル認証が事実上の関門。 ハラル認証は国ごとに制度が異なるため、「マレーシアのJAKIM認証があるから大丈夫」とは限りません
一方で、ブルネイは食品のほとんどを輸入に頼っており、外食は数少ない娯楽のひとつとして人気があります。日本食も富裕層を中心に支持されている。「日本の食品」への需要は確かにあるが、通せる商品を選ぶ工程が他国より重い、という理解が正確だと思います。
③ 「単独進出」ではなく「増分」として見るべき
現時点で、日本のセラーがブルネイに直接出店できる公式ルートは存在しません。今回のプログラムは西マレーシアのセラー向けです。
ただし買い手向けFAQには、ブルネイの買い手が利用できる品揃えとして「マレーシア国内およびクロスボーダーの品揃えの大部分」という記述があります。もしShopee MYにクロスボーダー出品している商品がブルネイの買い手に表示されるのであれば、日本セラーは何もしなくても販売機会が増えていることになります。現時点、日本セラーは対象になっていないようですが、今後に期待です。
まとめ
Shopeeは2026年1月から、Shopee MYの配送先としてブルネイを追加した(独立サイトではない) ブルネイのEC市場は約8,700万米ドル。規模は小さいが、1人当たりEC支出はASEAN最高水準 VAT・GSTがなく大半の品目が関税0%という、越境EC的には有利な税制 ただしアルコール禁止・豚由来NG・ハラル認証という宗教規制が商品選定を強く縛る 日本企業にとっては「単独進出する市場」ではなく「マレーシア展開の上積み」として評価するのが妥当
小さな市場だからこそ、参入判断のロジックがはっきり出ます。マレーシアやASEANでの展開をご検討中の方は、こうした周辺市場の扱いも含めてお気軽にご相談ください。
参考:
Shopee Malaysia公式ブログ https://shopee.com.my/blog/shopee-malaysia-doorstep-delivery-brunei/
Shopee MY Seller Education Hub「Brunei Expansion Programme」 https://seller.shopee.com.my/edu/article/26423
ECDB(Brunei E-Commerce Market) https://ecommercedb.com/markets/bn/all
UNESCAP「The landscape of B2C e-commerce marketplaces in Brunei Darussalam」 https://www.unescap.org/kp/2024/landscape-b2c-e-commerce-marketplaces-brunei-darussalam
U.S. Country Commercial Guide(Brunei – eCommerce) https://trade.gov/country-commercial-guides/brunei-ecommerce
PwC Tax Summaries(Brunei – Other taxes) https://taxsummaries.pwc.com/brunei-darussalam/corporate/other-taxes
Brunei Darussalam National Single Window https://bdnsw.mofe.gov.bn/Pages/CustomsImportDuty.aspx
農林水産省「国・地域別の農林水産物・食品の輸出拡大戦略(ブルネイ)」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/pdf/country7.pdf
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DICE.K
海外ネタを中心に書いてます。
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