近年、台湾では労働者の権利意識が高まり、職場環境の改善がますます重視されています。これまで法律上の定義が明確でなかった「職場ハラスメント(職場霸凌)」についても、2025年12月2日に「職業安全衛生法」の改正案が立法院で可決されました。
本改正では新たに《職業安全衛生法(職安法)》における「職場霸凌防治專章(職場ハラスメント防止専章)」が創設され、2026年7月1日より正式に施行されます。2013年以来、最も大きな法改正であり、台湾に現地法人や支社を持つすべての企業にとって、必ず確認・対応すべき重要な法令改正です。
職場ハラスメント(職場霸凌)とは?
改正後の職業安全衛生法第22条の1により、職場ハラスメントは以下のように定義されています。
【法的定義】 労働者が職場で働く際に、会社の関係者が自分の立場や権限を利用し、業務上必要な範囲を超えて、不当な言動を繰り返し行うことで、労働者の心身に悪影響を与えることを指します。具体的には、「脅迫する、無視する、仲間外れにする、相手をばかにするなどの行為」が含まれます。ただし、特に深刻な場合は、繰り返し行われていなくても、職場ハラスメントに該当することがあります。
ここで特に重要なのは、「状況が重大な場合は、繰り返し行われていなくても対象となる」という点です。
つまり、大勢の前で相手をひどく侮辱したり、人格を著しく否定したりするなど、重大な行為であれば、たとえ1回限りであっても、職場ハラスメントと認められる可能性があります。
「適正な指導」と「ハラスメント」の境界線
管理職が業績の改善を求めたり、仕事上のミスを指摘したりすることは、正当な業務管理の範囲内であれば問題ありません。
新法において、職場ハラスメントに該当するかどうかを判断するうえで、特に重要なのは、「業務上必要で、合理的な範囲を超えているかどうか」という点です。
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適切な指導: 業績向上や業務改善のために★合理的な目標★を設定することや、具体的な事実に基づいてミスを指摘することなど。
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職場ハラスメント: 人格を否定する発言、人前で見せしめのように暴言を吐いたり、ひどく責めたりする行為、退職に追い込むことを目的に達成できない業務を押し付けること、意図的に仲間外れにすることなど。
また、職場ハラスメントは、上司から部下への行為だけが対象ではありません。同僚間や部下から上司への行為であっても、職務上の立場や権限などを利用して行われた場合は、対象となることがあります。

職場ハラスメント認定の5つの構成要件
新法に基づき、職場ハラスメントに該当するかどうかを判断する際には、以下の5つの要件が重要となります。
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職場との関連性: 職場で発生した行為であり、業務に関連していること。リモートワーク中や、LINE・Teamsなどのチャットツール上での行為も含まれます。
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立場や権限の利用: 職務上の立場や権限など、相手より優位な関係を利用して行われていること。
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不当な行為: 業務上必要な範囲や、合理的に認められる範囲を明らかに超えていること。
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継続性: 行為が繰り返し、または継続的に行われていること。ただし、重大な場合は、1回限りの行為でも対象となることがあります。
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心身への悪影響: 労働者の身体や心の健康に悪影響を及ぼしていること。
企業(事業主)に課される法的義務と処理フロー
新法では、会社の規模に応じて、職場ハラスメントを防ぐための対策を行い、発生した場合は適切に対応することが求められます。
① 申告窓口の設置と対応
会社の規模に関係なく、職場ハラスメントの相談を受けた場合は、すぐに労働者を守るための対応を行い、調査を始めなければなりません。
② 政府システム(WBRS 職場霸凌案件通報系統)への通報義務
申告を受理した翌日から7営業日以内に、労働部の「WBRS職場ハラスメント案件通報システム」へ案件情報を登録する必要があります。
③ 厳格な処理期限
- 受理決定: 申告受領後 10営業日以内
- 調査委員会の立ち上げ: 受理後 15営業日以内
- 調査完了・決定: 受理後 2〜3ヶ月以内
④ 会社のトップが加害者である場合の特例
申告された相手が会社のトップ(総経理や実際に会社を経営している人など)である場合、被害者は会社内での手続きを行わず、直接、地方の労働局に申告することができます。
違反した場合の罰則・ペナルティ
法令で定められた義務を守らなかった場合や、違反があった場合、企業や個人に対して、以下の罰金(過料)が科されます。
💡 台湾で働くみんなを守るために(外資系企業へのメッセージ)
台湾では多くの労働者が日々働いています。一方で、会社の都合を優先するあまり、従業員に過度な負担をかけたり、無理な働き方を求めたりする企業が存在するのも事実です。会社の経営を理由に、社員の人員削減に踏み切る企業もあります。人員を減らしても、仕事は減りません。むしろ、残った社員に仕事を押し付ければ、会社は効率よく運営できるのでしょうか?そもそも、会社は社員の立場に立って、その心身の状態を真剣に考えたことがあるのでしょうか?
今の台湾は、労働保険の制度や社員を守る仕組みがとっても充実しています。日系企業を含む外資系企業の皆さんも、「知らなかった」「人手が足りなかった」「会社の方針だった」という理由だけで、責任を問われずに済むわけではありません。社員は、会社の都合に合わせて何でも引き受けるための存在ではありません。 人員削減による業務の増加も、行き過ぎたプレッシャーも、社員の心身に与える影響も、決して「仕方がない」の一言で片付けていいものではありません。台湾に進出している企業の皆様も、ぜひこの機会に新しい法律をチェックし、社内の働き方やマネジメントを見直してみてはいかがでしょうか?
日系企業・台湾支社が今すぐ取り組むべき対応
2026年7月1日の施行に向けて、以下のステップで準備を進めることを推奨します。
- 就業規則(社内ルール)の見直し: ハラスメントの禁止ルールや処分の決まりを社内ルール(就業規則)に付け加えます。
- 相談窓口のお知らせ: 「困った時はどこに連絡すればいいか」を明確にして、社員みんなにしっかり伝えます。
おわりに
今回の法改正で、台湾にある会社は「社員を守る責任」がもっと厳しくなります。特に日系企業では、言葉の壁や文化の違いから、上司と現地スタッフの間で「これって指導?それとも嫌がらせ?」と認識のズレが起きやすいんですよね。
「指導のつもりだった」「文化の違いだから」といった言い訳も、いつまでも通用するわけではありません。
お互いがストレスなく、気持ちよく安心して働ける職場にするために、会社も上司も早めにルールを見直して整えていきましょう!
📚 参考資料(参考リンク)
本記事の作成にあたり、以下の公式資料および専門法務解説を参照しています。
- 職場霸凌防治措施準則(勞動部職業安全衛生署):
https://www.osha.gov.tw/media/fvantegr/%E8%81%B7%E5%A0%B4%E9%9C%B8%E5%87%8C%E9%98%B2%E6%B2%BB%E6%8E%AA%E6%96%BD%E6%BA%96%E5%89%87.pdf - 新職安法(一):2026年7月1日職安法「霸凌防治專章」上路(Stellex Law):
https://stellexlaw.com/taiwan-occupational-safety-act-bullying-prevention/




